アルパカと生きる人々と暮らし、アンデス牧畜の今を見つめる:佃麻美(つくだ・あさみ)さんメールインタビュー

アンデスにおける人間=動物関係からみた
現代的牧畜の生活様式の解明

ふかふかとした柔らかな毛が高級なニット、織物の原料となり、もこもこの見た目や繊維メーカーのCMマスコットとしても近年人気のアルパカは、ペルーやボリビアなど、南アメリカ大陸の4000メートル級の高地で飼育されている家畜です。良質な毛は勿論のこと、現地では市場でより好まれる毛の色や繊維の太さなどを求めて品種改良を行うために、個体そのものも活発に取引されていると言います。肉を食べることもあるそうですが、搾乳は行われず、乳の利用はされていないそう(佃、2014)。

そのアルパカと時に間違えられがちなのがリャマですが、リャマはアルパカと比べて体高が高く、耳の形や顔つきも少し違います。毛も採れますが荷運びに使われることの方が多く、現地の道路が整備されてきた現在では飼育される頭数が減ってきています。

ビクーニャはアルパカ、リャマと同じ地域に生息している野生種で、アルパカよりもやや小さな体をしています。良質な毛を持っているため乱獲され、絶滅の危機に瀕したこともありました。現在は保護政策によってある程度回復し、生け捕りにして毛を刈るという現地の伝統的な方法で保全と利用の両立が図られています。保護動物なので肉の利用はできません。

これら3種の動物たちは生息域もほぼ同じ、同じラクダ科で姿かたちも似ている上、野生と家畜の境界を越えて交配することさえできますが、人間との関わり方はこのようにかなり大きく異なります。アルパカ、リャマは同種の中でさえ、時代と共に人間との距離感が変化しています。

2017年第1回基礎研究グラント 奨励賞を受賞された佃麻美(つくだ・あさみ)さんは、実際にアンデス高地に赴いて現地のアルパカ飼いの方々と共に生活し、放牧にも同行して、人々の暮らしぶり、考え方や、経済状況、また、人間と動物の関係の変化についてなど、多角的に調査されています。

参考文献:
佃麻美(2014)『中央アンデス高地ペルーにおけるアルパカの「遺伝的改良」と種畜の取引』
Annual Papers of the Anthropological Institute Vol.4

ご研究について

Q1. ご研究の内容について、一般の方向けに簡単にご紹介ください。

南米・アンデス山脈の高地でラクダ科の家畜アルパカ・リャマを飼養しながら暮らす人々の生活について研究しています。どのように家畜とともに暮らし、生計をたてているか、家畜やその他の野生動物とどのような関係を築いているのか、近年グローバリゼーションの影響が高地にまで及ぶなかでどのような変化があるかなどについて、調査地に住みこみ、現地の人々の暮らしに密着しながら調査をしています。

Q2. このテーマを選んだきっかけ、この研究を始めようと考えた理由を教えてください。

小さな頃からアンデスに憧れを抱いていました。大学で文化人類学という分野を知り、実際にアンデスで調査をしたい、そのなかでも人々の暮らしの基本である生業について研究したいと思いました。文献を読みすすめていくなかで、アンデスの牧畜は研究があまり進んでおらず、また他地域にはない特徴もあると知り、研究テーマに選びました。

Q3. このテーマのユニークなところ、面白いところなどPRポイントを教えてください。

アンデス高地は、家畜(アルパカ、リャマ)とその野生種(ビクーニャ)が同じ場所に生息しているという稀有な地域で、また家畜と野生種のどれをかけあわせても繁殖可能であるということも他では見られない特徴です。アルパカ、リャマ、ビクーニャという、同じラクダ科でありながら、野生/家畜、グローバルな商品/ローカルな非商品といった範疇がそれぞれずれながら重複する動物に着眼し、市場経済やグローバリゼーションが浸透しつつあるなかでの人と動物の関係の変化、また各動物の社会的・経済的意味の変遷を見ていくのが、このテーマのユニークなところです。

Q4. 研究費を得るのにご苦労された事情について教えてください。

文化人類学では現地調査が非常に重要ですが、現地調査の実施には多大な費用がかかります。南米で調査しようとすると往復するだけでも費用がかさみ、研究費を得ることができなければ研究を進めることができないというのが大変でした。

Q5. 採択決定後、ご研究は開始されましたか?

開始し、進行中

Q6. ご研究の今後の発展、見通しについて教えてください。

現在は文献研究を進めています。今後、現地調査を実施して、実際に人々がどのような関係を動物と築いているのか、データを収集していく予定です。

Q7. 英語論文の投稿や、国際学会での発表のご予定はありますか?

論文を投稿する予定

あなたご自身について

Q8. 研究者になりたいと最初に思ったのはいつでしたか?

大学(学士)

Q9. 研究者になりたいと思ったきっかけを教えてください。

きっかけの一つは大学での講義です。文化人類学の講義で知った世界のさまざまな文化は興味深く、また日本以外の社会を知ることは自身にとっての生きやすさにもつながるのではないかと感じました。日本の価値観だけしか知らずにいると、そこからずれる自分は許容されず、「なぜ?」という疑問を抱くことさえ難しくなってしまいます。自身の価値観を相対化し、自身が感じる「ずれ」とは何のかを追求するためにも、文化人類学という分野は非常に適していると思いました。

Q10. ご自身の研究者としての「強み」は何だと思いますか? また研究者としての弱みはありますか?

たとえ見知らぬ場所であっても飛び込んでいける好奇心と行動力は、まったく馴染みのない環境に長期間身をおく可能性のあるフィールドワークという手法をその学問的特徴とする文化人類学にあっては「強み」だと思っています。私の調査地は標高が4000m以上の高地で、インフラの整備も進んでいないので、身体的な頑丈さも非常に重要です。

日常生活のなかのなにげないやりとりに着目することは私自身にとって興味深く、また文化人類学の重要な部分であると思いますが、ときに大きな視点を見失ってしまうことは弱みだと思うので、細部の記述にこだわりながらも一歩ひいて広い視点で物事を見るようにしたいと思っています。

最後に

Q11. エディテージ・エッジWebサイトをご覧になる若手研究者、研究者を目指す学生さんへメッセージをお願いします。

研究を続けるのは楽しいことばかりではなく厳しいこともあるかと思いますが、いっしょに頑張りましょう。

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この記事を書いた人

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