速筋・遅筋特異的アセチルコリン受容体の機能解析

マグロやカツオ、マサバのような赤身の魚、カレイやヒラメ、マダイのような白身の魚。魚の身の色の違いには、その魚の持つ筋肉が大きく関係しています。

マグロをはじめとする赤身の魚は、その多くが長時間、種によっては一生泳ぎ続ける回遊魚で、長時間の運動に向いた疲れにくい筋肉「遅筋」を多く持っています。酸素を運搬、貯蔵するタンパク質であるヘモグロビン、ミオグロビンが多く含まれ、それらのタンパク質が赤いため筋肉も赤い色になります。持久力がある反面、収縮する速度が速くないため、瞬発力の必要な動きはあまり得意ではありません。

一方ヒラメなどの白身の魚は、マグロなどと比較すると狭い海域に住み、岩の間や砂の中などにじっとしている時間も長いため、持久力はさほど重要ではありません。彼らが多く持つ「速筋」は、敵から逃れたり餌を取ったりするごく短い時間、機敏に動くことに向いており、ヘモグロビン、ミオグロビンが少ないために白っぽい色をしています。瞬発力のある速筋は、遅筋と比べて力強い大きな運動が出来ますが、筋肉中に貯蔵されているグリコーゲンや血液中のグルコースなどの糖分をエネルギー源にしているため、それらが減ってくるとすぐに疲れてしまいます。

人間を含め他の多くの動物では、魚のように速筋、遅筋を別々に観察できる例は珍しく、速筋・遅筋両方の線維が混在してひとつの筋肉を作っています。詳しくは割愛しますが、速筋と遅筋のバランスや、どちらをより鍛えているかによって体の外見や、得意な運動が変わってきます。

2017年第1回基礎研究グラント 奨励賞を受賞された善方文太郎(ぜんぽう・ぶんたろう)さんは、筋肉が脳や脊髄から運動の指示を受け取る「神経伝達物質アセチルコリンの受容体」の構造に着目、速筋と遅筋で構造が異なることを示唆され、現在はその構造の違いの意味を解明することを目標に研究を継続されています。

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ご研究について

Q1. ご研究の内容について、一般の方向けに簡単にご紹介ください。

動物の運動制御システムについて研究を行っています。

日常の中で、我々の身体は巧みに筋収縮を制御し、身体を動かしています。これは脳から運動神経、筋へと繋がる情報伝達システムが機能することによります。このシステムに支障がでると運動機能の低下や喪失が起き、日常生活に影響が生じます。従って、運動制御システムの構造や機能の理解は運動機能障害の予防や治療を目指すうえで重要です。

このシステムにおいて、運動神経から筋への指令はアセチルコリンという物質を介して伝わります。筋はアセチルコリン受容体によってこれを受け取り、筋収縮を起こします。私は現在所属している研究室の小野富三人教授の主導のもと、このアセチルコリン受容体の構造が、速い運動を担う速筋と、ゆっくりした持続的な運動を担う遅筋とで異なるということを示唆しました。現在はさらにこの研究を進め、アセチルコリン受容体の違いがもつ機能的意義の解明を目指しています。

Q2. このテーマを選んだきっかけ、この研究を始めようと考えた理由を教えてください。

もともと生き物が動く仕組みに興味がありました。実際に研究の世界に入り、運動機能は動物にとって極めて重要な機能であるにも関わらず、その制御メカニズムには未解明な点が多く残されている事を知り、さらに興味を持ちました。運動機能はヒトを含めた多くの脊椎動物に共通した機能です。従って、運動制御システムの理解は動物の本質の理解にも繋がる重要な課題だと考え、研究を始めました。

Q3. このテーマのユニークなところ、面白いところなどPRポイントを教えてください。

本研究では実験動物としてゼブラフィッシュという魚を用いています。メダカほどの大きさで、名前の通り身体にゼブラのような綺麗な縞模様が入っています。しかし、生後2週間程度は身体が透明で、外から体内の様子を観察することが可能です。そして、ゼブラフィッシュがもつ運動制御システムの基本的な構成は我々哺乳類と共通です。この特徴を活かし、私は運動神経やアセチルコリン受容体の分布、さらには筋の活動の様子を、身体の外側から観察しています。

他の動物の場合、こういった解析には解剖や外科的な処置が必要ですが、ゼブラフィッシュなら非侵襲的に、自然の生理条件を保ったまま解析可能です。ゲノムデータベースも完備しているため、ゲノム編集などの遺伝子工学的手法を容易に応用できるのも大きな利点です。

Q4. 研究費を得るのにご苦労された事情について教えてください。

私は学位取得後、教授が着任して間もない、新しいラボに所属することとなりました。職を得られたことや研究室の立ち上げを経験できた事はとても幸運でしたが、ラボに入った当初は実験系の整備等に時間を費やし、なかなか研究に取りかかれませんでした。研究費の獲得には研究業績も重要ですが、このような事情からなかなか研究成果を挙げることができず、駆け出しの研究者でそもそも業績の少ない私にとっては、研究費の申請書の業績欄を埋めるのが苦しい状況でした。

Q5. 採択決定後、ご研究は開始されましたか?

  • 開始し、進行中

Q6. ご研究の今後の発展、見通しについて教えてください。

現在までに得られた成果を投稿論文として今年中にまとめる段階にあり、その作業と平行してさらに詳細に踏み込んだ研究を進めていく予定です。ゲノム編集によってゼブラフィッシュの速筋、遅筋のアセチルコリン受容体の構造を様々なパターンに改変することで、アセチルコリン受容体構造の違いがもつ生理学的な意義を解析していく予定です。

Q7. 英語論文の投稿や、国際学会での発表のご予定はありますか?

  • 論文を投稿する予定

あなたご自身について

Q8. 研究者になりたいと最初に思ったのはいつでしたか?

  • 小学校、またはそれ以下

Q9. 研究者になりたいと思ったきっかけを教えてください。

最初のきっかけは子どもの頃に恐竜図鑑を見て、将来は恐竜の研究をしたいと思ったことです。それ以来、大人になるまで研究への憧れは常に頭の片隅に持っていましたが、研究者の具体的なイメージもなく、研究者になるための道筋もわからなかったため、本気で研究者を志そうと思えたのは、大学の卒業研究で実際に研究の現場に触れた時でした。

Q10. ご自身の研究者としての「強み」は何だと思いますか? また研究者としての弱みはありますか?

地道な作業の反復や継続が苦にならない点は強みの1つだと思います。生物を使った研究では1度の実験だけで結論を出すことはできないため、同じ実験を何度も様々な角度から繰り返す必要があります。しかも1回ごとの実験において慎重さや丁寧さが求められ、根気が要りますが、こういった作業をしていると徐々に深く集中した状態に入ることができ、没頭して取り組むことができます。

一方で、研究者の中には、自分のラボの中にとどまらず、国内外を問わず、他の研究者たちと積極的に繋がりを作っていける人たちがいます。これによって、自分には無い知識や技術をもつ人たちと連携し、より広く、深く研究を進めることができます。私はこういった事は比較的不得手です。しかしその分、数は少ないかもしれませんが、繋がりを作れた人たちとの関係は大切にしていきたいと思っています。

最後に

Q11. エディテージ・エッジWebサイトをご覧になる若手研究者、研究者を目指す学生さんへメッセージをお願いします。

供に研究を楽しみましょう。研究に行き詰まったらゼブラフィッシュを使ってみることをお勧めします。実験動物としての有用性はもちろんですが、実験室に水槽が並んでいると気持ちも落ち着いて研究が捗ります。

Zebrafisch: Photo by Azul – Copyrighted free use