生薬における指標成分による品質評価法の確立

漢方薬を飲んでみたことはありますか? 風邪を引いたら葛根湯、鼻水には小青竜湯、お腹の脂肪が気になるなら防風通聖散…この辺りのお薬は、薬局でもよく見かけます。最近では商品名だけではすぐに漢方だとは分からない、カタカナ名の漢方製剤も多く出ています。ではこのような薬がそれぞれどんな材料から出来ているのか、考えたことはありますか?

2017年度第2回基礎研究グラント奨励賞を受賞された西原正和(にしはら・まさかず)さんは、これら漢方の材料ともなる「生薬(しょうやく)」の有効成分を分析されています。生薬とは薬用植物を干したり、煮たり発酵させたりして加工してつくる(化学的に生成したものではない)天然の薬物材料で、今の日本では全体の8割以上を中国から輸入しています。中国からの輸入が止まってしまったら、近年の不安定な気候などが原因となって生産が減ってしまったら…身近な薬が薬局から消えてしまうかもしれません。日本でも育てておけばいいんじゃないの? と思われるかもしれませんが、天然素材は採れた場所によって有効成分の含有量が異なる為、すぐに自給を目指すのは難しいのだそう。しかもそれぞれの生薬にどんな成分が入っていて、どのように体に効くのか分からないことも多いため、品質の評価や新薬の開発もなかなか進まないとのこと。

身近な薬をこの先も安定して使い続けるために、どんな研究が必要なのか? お話を伺いました。

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ご研究について

Q1. ご研究の内容について、一般の方向けに簡単にご紹介ください。

みなさん、生薬や漢方薬は、ご存じですか? 漢方薬では葛根湯など,なじみが深いかもしれませんが、生薬といわれると、なかなかイメージしにくいかもしれません。漢方薬は,漢方薬の辞典(出典)に,配合する生薬の種類と量が決まっています。このように,生薬は,漢方薬の原料にもなるものです。この生薬は,化学成分のように,有効成分が何かはわかっていません.それは,生薬自体が,薬用植物を加工した天産物で,複数の成分が複合的に働いて作用しているためといわれています.また,現在は,生薬1種類のみだけで「中年期以降の物忘れの改善」などを効能とする製品化も可能となっています.このように,生薬の利用範囲は拡大されつつありますが,原料の80%以上は中国からの輸入に頼っています.そのため,生薬の流通において,一定の品質が確保できているかどうか,生薬中の成分を探しだし,その成分が,生薬にどのくらい含まれているかを調査する研究を行っています.

Q2. このテーマを選んだきっかけ、この研究を始めようと考えた理由を教えてください。

私は,薬剤師ですが,大学在学時は,この生薬の授業が一番苦手でした.しかし,仕事をし出してから,奈良県は,西暦611年の推古天皇の薬猟(くすりがり)からはじまる「奈良のくすり」の歴史の雄大さや,薬用植物や生薬を学んでいくにつれ,ありとあらゆる可能性があること.生薬がほぼ輸入に頼っている現状もあり,この可能性を秘めた生薬の研究をすると同時に,みなさんに対して,安全かつ安心できる生薬や漢方薬を提供するには,どのようにしていくべきかを考え,この研究を選びました.

Q3. このテーマのユニークなところ、面白いところなどPRポイントを教えてください。

先ほども述べたように,生薬は天産物です.そのため,産地や取れる場所の違いによって,成分の量が全然異なります.また,生薬の種類によっては,これまで生薬中の成分を特定できず,断念されているものもあります.そのような中から,過去の論文や分析方法のイメージを構築していく中で,実際にこれまでなし得なかった分析を確立できる可能性があります.

また,この成分量を特定する研究は,生薬の品質確保の研究のために行っていますが,他方では,この研究結果を用いて,新たな生薬製品を創出できる可能性があります.これは,生薬1種類のみで構成されるものを製品化する際には,成分量の特定が必須になっています.そのため,実際に行った研究結果を応用することで,新たな製品を世の中に供給できる可能性を秘めているのです.

Q4. この研究の難しいところ、特にご苦労されていることを教えてください。

奈良県は,行政機関であるため,県民のみなさまの税金により,私達の研究費などが賄われています.そのため,県民のみなさまの健康などに直結する分析や研究に,その研究費を費やしています.そのため,自分が実施したい研究費を確保することは非常に難しいです.

Q5. 採択決定後、研究は開始されましたか?

  • 開始し、進行中

Q6. (開始済みの方へ)研究の今後の発展、見通しについて教えてください。

これまでの研究で,何種類かの生薬についての分析法の確立と成分量の分析に成功しています.また,今進めているものもあります.この研究結果を用いて,製品の流通が期待される生薬もあります.早いものであれば,来年度中に製品化できる予定です.

今後は,より多くの生薬を分析し,世の中になるべく多くの安全かつ安心できる生薬の流通に一役買えるような研究を行っていきたいと考えています.

Q7. 英語論文の投稿や、国際学会での発表のご予定はありますか?

  • どちらも予定はない(日本語での論文、国内学会はそれぞれ予定があります)

あなたご自身について

 

Q8. 研究者になりたいと最初に思ったのはいつでしたか?

  • 大学院(修士)

Q9. 研究者になりたいと思ったきっかけを教えてください。

大学院で研究していた中で,実際に自分が研究した結果が,今後の大きな仕事のきっかけになったり,これまで不可能といわれていたものを可能にすることが出来る可能性を秘めていること.

Q10. ご自身の研究者としての「強み」は何だと思いますか? また研究者としての弱みはありますか?

私は,研究者の中でも,どちらかというと机上で考える理論派ではなく,とにかくいろいろとチャレンジしてみる行動派です.そのため,他の研究者が「理論的に不可能だろう」「絶対にできない」と思われることでも,とにかくチャレンジするのが強みです.反面,やはりできない場合の方が多く,その分他の研究者よりも検討に時間がかかるのが弱みです.

最後に

Q11. エディテージ・エッジWebサイトをご覧になる若手研究者、研究者を目指す学生さんへメッセージをお願いします。

研究においては,まずは自分自身の研究は当然必要にはなってきますが,なるべく多くの研究者やヒトと知り合ってください.そして,そのヒトとの関係を構築してください.研究は,どちらかというと一人でなし得た方が,かっこいいし,素晴らしいとは思いがちですが,絶対協力者や助言をもらうヒトは必要になります.その上で,いろいろなヒトとのパイプを持っておくと,ありとあらゆることが解決できるだけでなく,それをさらに発展させた研究や,場合によっては共同研究など,素晴らしい成果につながります.ヒトとの関係性は,すぐに構築できるものではありません.そのため,学会発表の機会や,それ以外にもさまざまな講習会等では,臆することなく,いろいろなヒトと繋がりをつくってください.私を見かけた際には,ぜひ声かけをしてください.大げさかもしれませんが,これから皆さんとともに良い研究をたくさんして,世の中の発展にぜひ繋げましょう.

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